桂眼科クリニック

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車椅子でも気兼ねなく
桂弘先生のクリニックを訪ねて  戸倉 英美
 
 桂眼科クリニックは、新宿副都心から京王線で約15分、上北沢駅南口から徒歩30秒の静かな住宅街にあります。玄関前のスロープから始まり、広々とした廊下やトイレ、レールのない引き戸まで、車椅子の方も受診しやすいようにバリアフリーの設計が施されています。

 院長の桂弘先生は、慶応大学病院に長く勤務された後、立川共済病院眼科部長を経て、2000年に開業されました。その的確な診断とアドバイスは、受診した会員の間で大変好評です。クリニックを訪問してお話を伺いました。
戸倉 この病院は、もとは外科だったと伺いましたが、眼科をはじめたきっかけは?
   
桂先生

 父がここで外科を開業していました。長男で一人息子なので、継いでほしいと思ったでしょうね。でも学生時代に全部の科をまわった結果思ったのは、ちょっとへそ曲がりですが、人のできないことをしたい、専門性が重要だということ、もう一つは自分の身に置き換えたとき、手や足がなくなるよりも目が見えなくなる方が辛いのではないかと思ったのです。

 当時慶応の眼科には、植村恭夫(やすお)教授という小児眼科の大家がいらっしゃいました。そのころ慶応で、世界的な仕事ができる3人の教授の中の一人といわれていまして、この素晴らしい先生の下で勉強したいと思ったのも、ひとつのきっかけです。

 1976年に大学を卒業したあと、研修医として2年働き、その後、国立霞ケ浦病院に出張しました。眼科医は一人という環境で2年間勤務し、80年に慶応に帰りました。その時たまたま光凝固の専門外来を任されることになり、これが眼底のことを専門的に勉強するきっかけになりました。またその頃、3年先輩で現在杏林大学の教授をされている樋田哲夫先生がドイツ留学から帰国され、網膜剥離の手術をはじめました。そこで私も樋田先生から強膜バックリング術の手ほどきを受けました。

一年ぐらいあと、硝子体手術が丁度日本で始まった頃に、アメリカで硝子体手術を見学しようというツアーがありました。竹内忍先生、田野保雄先生、松下卓郎先生らが参加され、私も樋田先生と一緒に参加しました。このツアーの間に樋田先生が竹内先生、田野先生達と意気投合され、帰国してから眼科Surgeons(外科医の意)の会を作ったのです。
戸倉 この会が主催していた網膜剥離症例検討会は、私も一度見学させて頂き、会報にレポートを書きました。参加者の熱気に感動したことを覚えています。
桂先生

 うまくいかなかった症例を率直に話し合い、みんなでよい方法を見つけようというのがこの会の趣旨でした。84年に始まり、10年ほど続いたと思います。86年には、会の成果をもとに『網膜剥離の手術−確実な復位を目指して』という本を出版しました。丁度樋田先生がアメリカ留学に行かれたので、代わりに原稿を書いたり、編集をしたり、大変よい勉強になりました。

 慶応病院では、樋田先生がお留守なので、網膜剥離の手術をたくさん手がけました。85年は特に多く、年末の休みには毎日のように手術をしました。そんな中で、アトピー性皮膚炎の患者さんを診る機会がかなりあり、この病気と網膜剥離の関係について論文をいくつか書きました。

 
戸倉 アトピーの患者さんはかゆみのために目をたたくので、網膜剥離が多いといわれていますが。
桂先生

 皮膚科では、掻くと皮膚が破れ感染症を起こすので、掻かずにたたきなさいという指導をしていた時期があります。網膜の端に穴が開くというのも外傷性の特徴ですので、単純にたたいたりこすったりするのが原因ではないかといわれていました。しかし顔の皮膚炎があまりひどくなく、目をたたく必要がない人にも剥離が起きています。アトピーによる炎症が眼の中でも悪さをして、網膜が弱くなるというメカニズムがあるのではないかと主張しました。この問題は現在も結論が出ていません。

 
戸倉 網膜剥離は以前に比べ、簡単に治る病気になりました。しかし現在も患者さんは、手術後の生活について様々な不安を持っています。
桂先生

 眼科Surgeonsの会の本には、アンケートが載っています。このような症例だったら、手術後何日目に歩行・洗髪・自動車の運転などを許可しますか、ということを執筆者の先生方に尋ねているのです。

 その結果は千差万別で、非常に厳しい先生もいるし、緩やかな先生もいます。特に根拠があるわけではなく、みな経験からこのくらいしても大丈夫と判断しているのです。ただ、86年の初版と、96年の改訂版とを比べると、総じて緩やかになっています。

 
戸倉 10年の間に、生活上の制限はそんなに必要ないと分かってきたのですね。
桂先生

 患者さんが最も心配されるのは、目を使ってはいけないのではないかということです。でも目を使うことは網膜剥離に関係ありません。

 何をしてもいいですよと言うと、びっくりされます。眼の中に空気を入れるとうつ伏せで過ごさなければなりませんが、アメリカに行って驚いたのは、ベッドに穴が開いていて、下にテレビがあるのです。僕も慶応にいたとき、子供の患者にうつ伏せになって貰わねばならず、ゲーム・ボーイを渡して「これをやっててね」と頼んだことがあります。でもこれが病気に影響したということはありませんでした。

 
戸倉 最近は加齢黄斑変性が急増しているそうです。この病気は黄斑部に、光を浴びたことによる疲労が蓄積して起こるといわれていますが、パソコンやテレビで光を見ることの影響はないのでしょうか。
桂先生

 何とも言えませんね。アメリカで、加齢黄斑変性の患者さんといろいろな生活習慣の関係について、大規模な調査をしたことがあります。その結果、ひとつだけ因果関係が認められたのは、喫煙でした。あとの要素は統計的に有意ではないという結果が出ています。

 
戸倉 女優の樹木希林さんが、網膜剥離だけれども手術はしないという選択をされました。このことが公表されて以来、友の会のホームページにアクセスが増えています。先生のご意見は如何でしょうか。
桂先生

 どういう時点で眼科にかかり、どんな状態で、なぜ手術をしなかったのかという情報がありません。医者側がどういう説明をしたのかも分かりませんので、ちょっとコメントのしようがないのですが。

 
戸倉 私達の会は、これまで網膜剥離には早期発見・早期治療が大事だということを訴えてきました。このメッセージは一般の方にもかなり浸透してきたと思います。選択は人それぞれですが、希林さんは有名な方なので影響も大きく、これは困ったという印象を持っています。
桂先生

 網膜剥離といっても、あまり悪くならない状態で手術を受ければ、今は95%以上確実に治ります。かなり進んでからみつかったのか、或いは手術をしても視力の回復は望めないといわれたのかもしれません。個人の考え方はそれぞれに異なるので、一概にそれはいけないとは医者は言えません。

 
戸倉 手術に耐える自信がないので、しないと決断されたとのことですが、手術をせず片目が失明すると 眼球癆(ろう)に進み、却って激しい痛みがあるのではないでしょうか。
桂先生

 緑内障になったり、角膜に障害を起こしたりしなければ、激しい痛みが生じるわけではありません。ただ眼球が萎縮してくるので、外見的な問題が発生します。

 
戸倉 眼球癆(ろう)が起きると、必ず摘出が必要というわけではないのですね。
桂先生

 そうです。しかし眼球が縮んできたら、義眼コンタクトなどを入れて外見をカバーすることが必要です。ところで、井上忠夫さんのことはご存じですね。

 
戸倉 自殺された歌手の方ですね。
桂先生

 あの方は両眼網膜剥離といわれ、それを気に病んで自殺したと報道されていましたが、失明したわけでもなく、手術すれば治ったかもしれないのにとは思います。情報がうまく伝わっているのかなという疑問はあります。

 
戸倉 希林さんも朝起きたら片目が見えなくなっていたと仰っていました。その段階で手術すれば、問題なく視力も保たれていたのではと思います。
桂先生

 そういうことならば、そうですね。

 
戸倉 希林さんの選択は、不必要に手術に対する恐怖感を植え付けてしまったという点で問題があると思います。目の不自由な方達と接する機会がありますと、どんなに僅かな視力でも、あるのとないのとでは、できることが全く違うということが分かります。0.1でも0.01でも、視力を残す望みがあるなら、勇気を持って手術を受けるべきだというのが私たちの考えです。残したくても残せなかった方がたくさんいらっしゃるのですから。
桂先生

 その通りですね。手術をしても現状維持だけで回復があまり望めないというと、片目が見えるんだからいいじゃないかと考える方もいます。しかし残った片目にも、何時何が起こるか分からないということを、我々は必ず説明します。

 視機能を維持するのが眼科医の仕事ですから、どんなに悪い視力でも残せるものは残したいと思いますね。

 
戸倉 現在は、桂眼科で白内障の手術をされているのですね。
桂先生

 そうです。日帰りのできるケースに限ってですが、月に数件、内科医である家内の協力を得て手術しています。最近はお年寄りでも元気な方が多く、条件が揃えば日帰りの手術も可能です。どうぞご相談下さい。

 
戸倉 今後の抱負をお聞かせ下さい。
桂先生

 開業すると結膜炎のような小さな病気を診ることがほとんどです。でもそのような病気も患者さんにとっては、大きな心配の種になります。小さな病気も疎かにせず、きちんと説明して、患者さんの不安を取り除いて上げたいと思います。網膜剥離のように、視力に重大な影響を及ぼす病気は、早く発見して早く治療ができるようにすることが、開業医の務めだと思います。現在は、網膜剥離がみつかれば杏林か慶応の付属病院に紹介しています。

 
戸倉 ありがとうございました。これからも患者のためにご尽力下さい。

 桂眼科クリニック

 住 所 :〒156-0057 東京都世田谷区上北沢3-33-15
 電 話 :03-3304-6200
 診療時間:午前9時〜12時、午後3時〜7時(土曜日の午後は5時まで)
 休診日 :日曜・祝日。木曜午後は予約の手術のみ。
 備 考 :地域によっては、寝たきりの方の往診も可能です。
 HP  :http://www005.upp.so-net.ne.jp/katura/
 
 

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