網膜剥離の病態と最新治療法

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《2006》東北懇話会講演
網膜剥離の病態と最新治療法

 伊野田眼科クリニック 伊野田 繁先生

 
  私はこの会とは15年ほど前からお付き合いさせていただいています。
3年ほど前に大学をやめてクリニックを開業してからも、お声をかけていただいて、お話をさせていただいています。

 今日は裂孔原生網膜剥離とその手術についてお話したいと思います。

 先ほどIさんやHさんなどがこの病気について語っておられましたが、昔はこの病気は治りが悪くて、不治の病といったイメージがありましたが、今は逆で、きちんと手当さえすれば、ほぼ100%治ります。手術法も非常に進歩し、また昔は手術前から絶対安静を何日かさせられ、術後も1週間、中には1ヵ月近くも絶対安静を強いられたようなこともありました。

 今は手術前の安静の必要はほとんどなく、当日来ていただいて、術後一晩おいて翌日はもう退院してよいということも可能になっています。それで特に問題はなく、治りもよくなっています。ところが、ひとたび手術の方法や適用を間違えると、なかなかうまくゆきません。

 
【眼の仕組み】
 まず復習の意味も込めて、最初に眼の構造を説明します。(参考図
正面から見たところですが、上眼瞼(じょうがんけん)と下眼瞼(かがんけん)があり、まん中に茶色く見えるのがよくいう黒目です。ここが色が薄くなっているのは、いわゆる散瞳剤で瞳をひろげているからです。

 大きさは、通常明るい所では2mmとか3mmほど、暗い所で7mmぐらいです。その奥に水晶体というレンズがあります。白目の部分の表面は結膜という組織に覆われていて、眼球の壁となる強膜でおおわれています。断面にして見たのが次の図です。

 茶目の後ろが水晶体で、全体の壁を成しているのが強膜で、その後ろに大きな体積を占めているのが硝子体です。角膜の前から後ろの網膜までが24mm、角膜の上下間が11mmくらい、水晶体の厚みが4mmぐらい、大きさが9mmです。硝子体の体積は約4cc、眼球全体の容積は7.5ccあります。角膜の中央の厚みは0.5mmぐらい、網膜の厚さは厚いところで 0.5mmぐらいです。眼球はおおよそはゴルフボールぐらいの大きさです。

 角膜の頂点から網膜の中央までの長さを眼軸長といい、ふつう24mmほどです。近視の強い人では30mmぐらいの方もいます。逆に短い場合は17mmなどのバリエーションはあります。

 眼球の役割は物を見ることです。
外側のこのようなものが、眼の中を通って一番奥のオレンジ色でかかれた網膜に写し出されて始めて見える、これは実は逆さに写っているのです。したがって網膜の上がやられると下が見えない、下がやられると上が見えなくなるのが普通です。左が見えないのは、網膜の右が悪い、右が見えない場合は左が悪いといった関係になっています。

 眼の一番奥を眼底といって、絵にしたものがあります。
網膜の一番端は鋸の歯のような形をしているので、鋸状縁といいます。この鋸状縁から鋸状縁までが網膜になります。その外側が茶眼の裏側まで続いています。網膜はかなり広くて、一回の眼底写真では範囲が限られて写ります。

 網膜の中央部分を黄斑といって視力にとって最も大切な部分です。ここが眼球のほぼ中心で、ちょっとずれたところに、白い丸いところがありますが、視神経乳頭といい、網膜に当たった光に神経が反応するのですが、その反応が連鎖して頭に伝える神経に繋がり、それがここに集まって、さらに脳に伝わるという大事なところです。

 網膜の黄斑だけを取り出してみると、黄色い色をしているのでこの名がつけられました。網膜の後ろ側には赤い色をした網目のようなものが透けてみえます。脈絡膜という血管の層です。これは日本人即ち黄色人種のもので、白人だともっと透けてより鮮やかに見えるし、黒人だとほとんど網膜の血管しか見えません。

 網膜の断面図を見ると、内側が硝子体、外側が眼球の壁を成している強膜になります。真ん中の茶色の部分が網膜色素上皮、その上側を感覚網膜といい、この二つを合わせたものがいわゆ.る網膜です。感覚網膜は、波打ってみえる内境界膜の下に神経繊維層が走っていて、そこから光を感じる視細胞層まで、全部で9層から成っています。それに網膜色素上皮細胞を合わせて10層が網膜と いうことになります。網膜色素上皮の外側に脈絡膜という非常に血管に富んだ層があり、この脈絡膜の血管から(網膜に近いところは細かな穴が開いている状態)栄養成分が容易に内側に入ってきて、光を感ずる視細胞に栄養がいきわたって働くわけです。

 網膜色素上皮層と感覚網膜の間が離れた状態を網膜剥離といいます。網膜剥離というと全体が剥がれるのかというイメージがあるようですが、実は分離するのは網膜色素上皮と感覚網膜の間だけなのです。脈絡膜から栄養分が供給されるので、分離してしまうと栄養が行かなり、暗くなって見えなくなるのです。

【裂孔原生網膜剥離とは】
 網膜剥離の発症の仕方を年代別にみますと、二方性、つまり60歳代から70歳代と、10歳代から20歳代に二つのピークがあることがわかります。

 これは網膜剥離といつてもタイプがいろいろあって、タイプ別に発性のメカニズムが違うことによります。私の恩師の清水昊幸先生が「清水の5型分類」というものを提唱しました。その外にも分類はいろいろ提唱されていますが、多少の違いはあっても大体このタイプに分けて考えることができると思います。

 分類は、真ん中に孔のある黄斑型、まん中から中央までの円の中に孔のある中間型、端の部分に孔のあるのを二つに分けて周辺部円孔型と周辺部裂隙型としています。鋸状縁の部分、もしくは鋸状縁よりももっと周辺の毛様体に穴の開くこともあるのですが、それも含めて鋸状縁型に分類します。

 私が、自治医大時代に統計を取ってみたのですが。合計1,345名の患者さんを分類してみますと、約半分が周辺部裂隙型タイプ、三分の一が周辺部円孔型で、周辺部に孔のできるのが約8割。その外に中間部型、鋸状縁型、黄斑部型がこの順にあり、わずか1%に裂孔のわからない場合がありました。

 この眼底写真は、大きな裂け目のできた場合です。
よく見ると網膜に白い皺が見え、ギザギザの縁が見えます。この部分は実は網膜格子状変性を起こし網膜と硝子体が非常に強く癒着しているのです。硝子体が剥がれたとき、硝子体と網膜がくっついたままになって、大きく網膜が裂れてしまいました。このタイプが最も頻度が多くて約50%、進行速度は急激です。この場はバックリング手術の適用となます。

 二番目に多いのは、網膜の端に開く周辺部円孔型で、約30%、進行はごく遅く、後硝子体剥離は少ししか起きていない、年齢の若い場合に多いのです。しかし孔の周辺は格子状変性伴っていることが多い。手術は通常のバックリング手術が適応もいようです。

 次の写真は神経乳頭の付近が剥がれている例です。血管沿いに穴が開いて小さな出血がある、非常に奥深いところに孔のある中間型の例です。約9から10%です。BRVO(網膜静脈分枝閉塞症)は、網膜の血管が詰まってしまう病気ですが、それを伴っていることが多い。また格子状変性がある場合もあります。この場合は穴の位置が奥深いので硝子体手術が第一の選択となります。

 次は鋸状縁型です。眼球を横から撮ったこの写真ではレンズの端にスリット状の孔があいています。これは鋸状縁よりもっと端の毛様体襞部裂孔といい、約7%、高齢者の白内障の術後にこの部分に起きやすいのです。若い人の場合はアトピー性皮膚炎が原因で、目が痒いので始終掻いたり叩いたりするために、この部分に孔の生じることが多いようです。孔が端にあるので裂孔の検出は難しく、時には網膜全体が裂けて、鋸状縁の部分が90度あるいは180度裂けてしまうようなことがあります。90度以上を巨大裂孔といいます。ただし、数は少ないです。

 黄斑型は、黄斑の真ん中に孔が開いているので視力が著しく悪化します。黄斑型は全網膜剥離の約5%で、ほぼ100%が強度近視の場合です。どういうわけか、中年以降の女性に多く、男性では希です。これは治すのが難しいのですが、今では眼の中でする硝子体手術を行って網膜をくっつけて、ガスを注入して治すという方法を取ります。

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