網膜剥離の治療

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《2010中国・四国懇話会講演》
 網膜
剥離の治療

   みなもと眼科院長 皆本 敦先生

 皆本です。みなもと眼科というクリニックを広島市の南区で開業しております。今回のタイトルは「網膜剥離の治療」ということなのですが、最初に眼の構造を簡単に説明させていただきます。
◎眼の構造
 網膜剥離の原因を考えるうえで、硝子体は大切な眼の中の構造です。

 硝子体はガラス(硝子)体と書きます。人間には二つの眼球があり、眼球は前から角膜という透明な膜があり、年齢と伴に濁ってきて白内障になる水晶体という部分があり、ここを光が通ります。

 一番内側の眼の底(眼底)にあって、光を感じる部分を網膜と呼んでいます。
血管と神経が豊富な組織で、血管と神経が網のように絡みあっているので、網膜という名前が付いていると思われます。網膜の中心が中心窩、中心の一帯を黄斑と言い、色の判断や字を読むときには、中心部を使っています。網膜で感じとったものは、視神経と呼ばれる神経の束を通り、脳に到達して、初めて「見た」ということになります。

 前方には角膜というレンズと、水晶体というレンズがあり、眼球の中は空洞ではなく、硝子体というタンパク質で占められています。

 タンパク質と言いましても、99%は水で、繊維状のタンパク質の中に水が詰まっています。角膜、水晶体、硝子体は、光を通す透光体と言いますが、硝子体は網膜まで光を通す役割と、眼の外から掛かってくる力、外力に対して、他の神経組織を守るショックアブソーバというという働きをしています。

 お母さんのお腹の中にいるときは、硝子体は透明ではなく、血管が縦横無尽に走っています。
発生の段階では、血液を眼の後から前の方に運んで、眼を形作っていきます。ですから、我々の眼の中には必ず、胎児期(母親の体内にいる時)に太い血管が眼の後から前に通っていた通り道が残っていて、生まれてくる前に血管は吸収され、透明な硝子体になります。これが正常な赤ちゃんの発生です。

 硝子体という腔内には、視神経乳頭という神経の出入口から水晶体の後に向かって、元々お腹の中にいたときに血管が通っていた通路が残っていて、その周りには硝子体繊維(繊維といっても、構造タンパク質の繊維に水が詰まっているもので、殆どは水です)が走っていて、眼の形をきれいに保っています。

 これは、たまたま血管が吸収されずに残って生まれてきた眼の標本です。視神経のところから水晶体に向けて血管が残って生まれてくる場合があります。これは正常な発生ではないのですが、こういう例を見ると、人間の発生の過程で、眼がどのように形成されてきたかがわかります。
◎飛蚊症について
 硝子体は飛蚊症という症状と深く関わっています。
飛蚊症は最近一般に知られるようになりましたが、蚊や糸屑などが飛ぶように見えるという症状が、我々が生活している中で感じられることがあります。色々な表現があり、ゴマ粒、虫のような物、カエルの卵のような物、糸屑等が見え、眼を動かすと、それらが付いてくるのが気になるという症状を訴えて、眼科を受診される方がいらっしゃいます。

 何故こういうことが起こるかと言いますと、眼の中には誰しも、ある種の濁り、透明で無いものがあります。普段はそれを自覚することが少ないのですが、何かの拍子に気がつくことがあります。硝子体の中に濁りがあると、光が通った時に、網膜に向けて影を落とします。濁りが動けば影も動いて、いわゆる飛蚊症という症状になります。

 飛蚊症は症状なのですが、症状があるからと言って、全てが病気であるとは限らず、生理的なものもあり、病的な飛蚊症もあります。生理的というのは、病気ではないということです。

硝子体にはタンパク質の繊維がたくさんありまして、光が入った時に、光に対してわずかでも不透明であれば影を落とします。普段雑多な背景の物を見ている時は自覚しにくいのですが、薄曇りの空とか、きれいな白壁などのモノトーンの背景を見ると、そういう物が見えることがあります。

 近視の強い人は、眼の中の硝子体内部の腔内が、近視でない人より若干大きく、眼の中の濁りも生じやすい傾向があります。近視の強い方は、生理的飛蚊症が起きやすい(自覚しやすい)ということができます。

 次の映像は、高校生のグループが、飛蚊症とはどういうものか調べるために、広島大学眼科に来たときに撮影したもので、高校生と先生の眼底写真です。17歳の眼底は、飛蚊症がなく眼の中はきれいで、眼の底の血管や視神経などが、白黒写真ですがきれいに写っています。

 先生は50歳の方ですが、眼底写真には飛蚊症(硝子体の濁り)が写っています。この飛蚊症の動きには、慣性の法則が働いています。例えば車に乗っていて急にブレーキを掛けると、身体はそのまま前に動こうとします。動いている物はずっと動き続けようとし、止まっている物はずっと止まっていようとするのが、慣性の法則です。それと一緒で、眼を急に動かすと、それまで止まっていた硝子体はそれに付いて行けないので、影は止まっていようとします。

 眼が止まるときには、今度は硝子体が動いているので、しばらく影も動いてしまいます。そういうわけで眼を動かすと、影は遅れてついてくるように見えます。

 硝子体というのは色々な条件で形状が変わってきます。
年齢的な変化では、ゼリーのようにプルンとしていた硝子体がさらっとした硝子体になってきます。例えば、新鮮な卵と、古くなった卵を割ってみると、古い卵の白身は新鮮な卵に比べ、水っぽくなっていますが、同じような変化が硝子体に起こってきます。年齢だけではなく、近視が強いと、同様の変化が起こります。

 眼科では、硝子体が水っぽくなることを、液化と言います。タンパク質が水っぽくなることを融解と言います。水分になった部分と、まだゼリー状で形がある部分が分離して、眼の前の方は硝子体繊維がくっ付いていますので、必ず後の網膜の方から、硝子体のゼリー状の部分が離れていき、硝了体剥離という変化が起こってきます。

 今までお話ししたように、硝子体がこういう変化を起こしてくるのは、年齢的な変化が殆どで、生理的なことです。決して病気とは言えないのですが、このことが関与して網膜剥離という病気が現れることがあります。

 若い時の硝子体は比較的均一で、あまり濁りもありません。しかし、歳を重ねると少しずつ濁りが出てきます。時間が経つとゼリi状のものはもっと前の方に収縮したようになります。

 硝子体が眼の底の網膜から剥離する(硝子体剥離)ときに、飛蚊症を強く感じます。濁りがスクリーン(網膜)に近いときは、影は濃く見えます。つまり、出始めのときはすごく濃く感じられます。何ヶ月、何年と経って、影が前にずれていくと、だんだん薄くなって、前ほど気にならなくなります。

 こういった一連の飛蚊症の経過は、誰しも等しく起こりうることです。つまり、飛蚊症があっても、取りあえず心配のないものが多いのです。後部硝子体剥離は年齢にともなう変化ですが、病的でないものがたくさんあり、そういう場合は心配ありません。

 ところが、同じ飛蚊症でも明らかに病的な場合もあります。
網膜の孔や網膜剥離という病気もあれば、網膜の血管の病気であったり、感染が起こっていたり、ぶどう膜という網膜の裏側にある膜が、炎症を起こしていたり、そういう諸々の病気によって、硝子体の中に出血が起こることがあり、これは単なる濁りではありません。

 患者さんは、自分の飛蚊症が生理的なのか病的なのか区別することができません。飛蚊症を訴える患者さんを診て、それがどれに当たるのか判断するのが、眼科の仕事です。

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