全身病と眼の関係

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《2011年関西懇話会講演》
全身病と眼の関係

   前大阪医科大学眼科 池田 恒彦先生

 皆さんこんにちは、大阪医大眼科の池田です。本日は「全身病と眼の関係」について、お話させて頂きます。

 これまで糖尿病と網膜剥離の関係は、何度か取り上げたことがありますが、今日はもう少し広い範囲で、身体の病気と眼はどう関係しているのかということをお話したいと思います。

 眼は、非常に多くの全身病と密接に関係していますので、とても全部を詳しくはご説明できません。一般の患者さんになじみのある、代表的な全身病と眼の病気の関係を、かいつまんでお話させて頂きます。
1. 眼科の検査
 まず眼球の構造ですが、前から角膜、虹彩、水晶体があり、眼球の後ろの方に網膜があります。網膜は、カメラでいうとフイルムに当たり、網膜に像を結んで物が見えるという構造です。

 眼底検査は光を入れて眼の中を見る検査です。これは正常な方の眼底ですが、お月様のように丸く見えるのが、視神経乳頭、色が濃くて太いのが静脈で、細くて色の薄いのが動脈です。視神経乳頭は、網膜の神経線維が集まり、脳に繋がっていく部分です。血管は四方八方に枝を延ばし、網膜に栄養を与えています。黄斑部は網膜の中心部で、ここが損傷されると視力がガタッと落ちてしまうので、非常に大切なところです。

 これは我々の眼科外来の写真です。視力表がありますが、5メートル離れて一番上が見えると0.1、一番下が見えると2.0ということになります。

 細隙灯顕微鏡検査は、部屋を暗くして行います。患者さんが器械に顎を乗せ、光のラインを斜めから入れると、まず角膜、次に水晶体というように、光の当たったところが鮮明に見えていきます。この器械を使って、眼圧を測ることも出来ます。

 眼底を見るためには、ミドリンという目薬で瞳孔を開きます。細隙灯顕微鏡の前にレンズを置くと、眼底にピントを合わせることができ、細かいところまで良くわかります。これで大体のところを見た後で、さらに詳しく眼底検査をします。レンズを眼にかざして光を入れると、眼底の反射が映ります。上下左右がひっくり返って見えるので、倒像鏡検査といいます。

 この検査の特徴は、眼底の広い範囲が見えることです。検査のときには眼科医が、「上を見てください、右上を見てください」などと言います。正面を含めて9方向に眼を動かしていただくと、端の方にちょっと見え難いところが残りますが、大体網膜の9割以上を見ることができます。

 これは双眼倒像鏡と言い、頭に被って使う倒像鏡です。返って来た光を右と左に分けて見るので、眼底が立体視でき、優れた眼底検査の器械です。私はこれを愛用していますが、日本の眼科医で使っている人は比較的少ないです。

 糖尿病などで硝子体出血を起こし、眼底が全く見えない時は、超音波検査を行います。眼の中が混濁していても、網膜剥離があるかどうかなど、眼底の状態がある程度わかります。たいへん有用な器械です。

 7〜8年前から光干渉断層計(OCT)という優れた器械が出てきました。先程の検査は、超音波を用いますが、OCTは光を用います。いわゆる光のエコーです。光を入れて、反射して戻ってきた波を解析すると、網膜の断面を描き出すことができます。

 この写真で凹んでいるのは、黄斑部の中心窩です。網膜の厚みは、僅か0.2ミリメートル、200ミクロンです。網膜はこの0.2ミリの中に、さらにいくつもの層を持っており、この層の構造を詳細に見ることができるのが、この器械です。この器械が眼科診断学を大きく変えました。今まで倒像鏡で検査しても、網膜の内部がどうなっているかはわかりませんでしたが、この器械のおかげで、詳しくわかるようになりました。

 最近の眼科学で、最も大きな進歩だと思います。例えば糖尿病黄斑浮腫という、網膜が膨れ上がる病気があります。この器械を使うと、水膨れになっているのがわかりますし、腫れが減っていく様子もよくわかります。治療の効果を、正確に判定することができるのです。
2. 糖尿病と眼
◎最も怖い網膜の病気
 糖尿病は以前にもお話ししましたので、簡単にご説明したいと思います。今でも患者さんが多く、最も深刻な網膜の病気は糖尿病です。2007年の厚労省の統計では、糖尿病の患者さんの数は、推定約890万人いらっしゃいます。

 これは日本の総人口の十数人に一人に当たります。40歳以上に限ると10人を割ってしまい、数人に一人が糖尿病という現状です。同じ統計によれば、2002年は740万人、1997年は690万人でした。この間日本の総人口はあまり変化していませんから、糖尿病の割合が急激に増加していることがわかります。

 糖尿病の網膜に対する影響は、いつ頃から出てくるかといいますと、当然のことながら、糖尿病を長く患っていればいる程網膜症は増えてきます。統計によって差がありますが、10年から15年患っていると、約半数の方に何らかの網膜症が出ています。これには視力が全く落ちない方も含まれていますが、糖尿病網膜の患者さんは非常に多いということができます。このうち失明される方が、年間2,500から3,000人おられます。

 その殆どの方が増殖糖尿病網膜症になり、網膜剥離や血管新生緑内障を起こして見えなくなってしまいます。非常に深刻な問題です。厚労省の発表した本邦の失明原因は、第1位が緑内障です。

 以前は長い間糖尿病網膜症が1位でした。今は緑内障が一位ですが、糖尿病網膜症が殆ど同数です。3位が網膜色素変性症、4位が強度近視という順で、緑内障と糖尿病網膜症は我国の二大失明原因です。

 緑内障は非常に多く、40歳以上の20人に一人は緑内障と言われています。もちろん軽症の方も含めてですが、20人に一人と言えば、ここにいらっしゃる方のうち、2人くらいが緑内障ということになります。糖尿病網膜症は1位から2位になったのですが、絶対数が減っているわけではなく、以前の調査と比べても増えています。ただ緑内障が急激に増えているのです。

 昔、緑内障は眼の圧が高い病気、眼球が硬い病気と言われていました。ところが実際眼圧が低く眼が硬くなくとも、緑内障という方が、日本にはたくさんいらっしゃることがわかってきました。これは色々な疫学調査でわかってきて、今までは緑内障と診断されていなかった方が緑内障となったため、緑内障の患者さんが増えて第一位になったのです。ですから糖尿病の患者さんは減っているわけではなく、今でも非常に多いのです。
◎糖尿病網膜症の発症と治療
 糖尿病網膜症はどう起こってくるかといいますと、網膜の毛細血管の内側には内皮細胞があり、外側には周辺細胞があります。糖尿病が長く続くと、細胞が死んでしまう現象「アポトーシス」が起こります。細胞が死んで無くなってしまうと、急に血管が弱くなり、瘤のようなものができます。

 これが破れると眼底出血となり、さらに進むと、血栓形成といって血の固まりができ、血が行き渡らなくなります。これが増殖前糖尿病網膜症という状態です。

 この眼底写真は一見正常に見えますが、赤い点があります。これが先ほどお話しした血管の瘤で、毛細血管瘤といいます。見落としそうな小さな変化なのですが、蛍光眼底造影検査をすると、どんな状態かが見えてきます。造影剤を注射して、青い光でフラッシュ撮影をすると、瘤に造影剤が溜まり、検眼鏡では見えない毛細血管瘤が白く写ります。この白い点が、全て毛細血管瘤です。この患者さんは、この段階で、全く自覚症状がありません。視力は1.5あって、人間ドックでみつかり、見せていただいたら、こういう眼底でした。病気は知らない間に進んでいることがわかります。

 この瘤が破れると出血し、血液中のリポ蛋白という老廃物が出て黄色くなってきます。これを硬性白斑といいます。さらに血管が詰まると軟性白斑が出てきます。これは虚血によって細胞が破壊された状態で、毛細血管が潰れてしまい、血が行き届かなくなっています。

 これを放っておくと、栄養不良になった網膜から、新しい血管を生やそうとする化学物質が出てきます。これが血管新生因子です。こうなると我々は、眼の中に余計な血管が出てくるのを防止するために、レーザー光凝固をやります。レーザーを打って余計な化学物質を押さえる治療を行うのですが、往々にして糖尿病の方は、もっと悪くなってから眼科に来られるケースが多いのです。糖尿病の治療には、内科と眼科の連携が重要です。

 この患者さんは、このあたりに新生血管があり、蛍光眼底検査をすると造影剤が白く漏れています。広範囲に毛細血管が詰まっており、進行した例です。来られた時にはもうこんな状態で、慌ててレーザー光凝固をやりましたが、結局は硝子体出血を起こして、硝子体手術になってしまいました。

 新生血管が出て来ると、それが破れて出血します。毛細血管が切れた場合は、ちょっとした出血ですむのですが、新生血管が切れると大出血になります。一晩で大量に出血して朝には見えなくなり、驚いて病院に来られる方が多いです。更に悪くなると、血管から増殖膜という余計な膜が生えてきて、網膜を引っ張り上げ、網膜剥離が起こります。硝子体は年齢の変化と共に収縮してきますが、これが新生血管によって根こそぎ引っ張られ、牽引性網膜剥離を起こします。

 これが起こると、失明に向かって一直線です。こうなってからでも最近は、硝子体手術で、ある程度治るようになりましたが、やはり限界はあります。8割位の方が何とか視力を維持できますが、2割の方はだめです。早く見つけて、手術が必要な状態にしないことが大事です。すでに重症で増殖膜がいっぱいある方でも、手術がうまく行くと眼底が見えてきて、視力が回復することもあります。しかし全ての方がうまくいくわけではありません。再発を繰り返し、結局は治らないという方が、今でもかなりおられるというのが現状です。

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