糖尿病網膜症の治療

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2012年東北懇話会講演
「糖尿病網膜症の治療」

   山田眼科院長 山田孝彦先生

 糖尿病網膜症は、以前は「糖尿病性網膜症」と言っていました。
最近は糖尿病網膜症と言っています。起こってくる網膜剥離はかなり重症で、普通の裂孔原性の剥離に比べると難治性で、失明率も高いですから、網膜剥離の患者さんにも聞いていただきたい話はいっぱいあります。
【眼の構造】
 網膜は眼球の内部の後ろ3分の2ぐらいに張っている神経組織です。網膜は外側の脈絡膜に接していて脈震から繋とか養分書っていますから、剥がれると機能を失ってしまい見えなくなります。前の部分の角膜と水晶体はレンズにあたります。網膜と水晶体の間の眼球の内部は硝子体というドロドロとした寒天状のもので満たされています。(眼の構造図

 硝子体と網膜は結構癒着している箇所があって、硝子体が網膜を引っ張って剥がれるということがあって、むしろ邪魔になる場合もあるんですが、硝子体というのはかなり重要な物です。

 糖尿病網膜症の場合、網膜が剥がれると硝子体は出血の場になります。そうなると光が通らなくなって見えにくくなります。急にバーッと黒いのが出てきて、一瞬で全然見えなくなる場合もあります。眼球の一番外側は強膜という白い膜で覆われていて、前眼部の角膜のところだけ透明になって光を通します。

 CTの断層写真ですが、眼の前部は水晶体があって、硝子体があってこの眼は網膜剥離の輪状締結手術をしているで、ここにスポンジが入っています。白い画像はシリコンオイルです。かなり重症例で、シリコンオイルを入れていますが、仰向けになって撮ると、シリコンオイルは軽いので、上の方に浮いてきます。

 皆様の中でシリコンオイルを入れた手術を受けた方がいるかもしれませんが、オイルというのは密着しているわけじゃなくて、ある程度眼の中で動いています。そうでないと逆に網膜が駄目になってしまうのです。

 次の手術例は眼球をぐるっと鉢巻のように巻き、眼球を凹ませて容積を小さくして剥離した網膜をくっ付けるという、古典的ではありますが、今でも重症例にする手術です。スポンジは空気が入っているので、写真には黒く写ります。輪状締結をして、しかも白内障の手術をして、ここに眼内レンズが入っています。

 正常眼では、外から光が入って、網膜に当ると、光を信号に変えて視神経を通り、脳下垂体あたりにある視交叉というところで交差して、ずうっと脳の中を通って、視覚中枢がある後頭葉に至ります。ですから後頭葉が、脳梗塞などの脳の病気になると視野が欠けたり、酷い場合には全部見えなくなってしまう場合もあります。中枢性の視覚障害ですね。

 それから眼科で見つかる腫瘍というのも結構あって、例えば下垂体に腫瘍がある場合も、視神経が圧迫されて、視野が欠損するので、患者さんはまず眼科に来るのです。この1年で2人ぐらい脳下垂体腫瘍を見つけました。このように「眼が見えない」と来られた方の視野を検査すると、特徴的なパターンがあって「アッこれ脳腫瘍だ」と見つかります。
【糖尿病によって起こる合併症は、白内障と緑内障と網膜症です】
 糖尿病の原因はインスリンが出なくなったり、もしくはインスリンが出ても血糖が下がらない高血糖によって、全身に色んな障害が起こってくるわけですが、ここでは眼だけに絞ってお話します。

 白内障は普通は加齢変化で、紫外線が原因で眼の水晶体が濁ってくるものですが、糖尿病性の場合は、濁るのは同じでも高血糖のためにソルビトールという特殊な糖がレンズに溜まってしまうのが原因です。ですから10代でも20代でも起こります。若い人だと加齢性白内障とは非常に違う濁りかたをします。60歳を過ぎてくると普通の老人性白内障と合併することが多いので、水晶体を診ただけでは、どっちか分からなくなります。

 糖尿病は血管の病気で、特に細かい血管が潰れていく病気です。そうすると眼の中の血管も潰れて虚血状態になるために、新生血管があっちこっちに出て来て、破れて出血をしたり、前房隅角というところの水の通りを悪くして眼圧が上がるのです。普通の緑内障とは違い、新生血管が線維柱帯というところを塞いでしまうために非常に治り難いです。

 なぜ治しにくいかと言うと、手術する所にいっぱい血管があって出血が止まらないところなんですね。だから技術的に非常に難しく、難治性の緑内障になります。それから今日の本題である網膜症なんですけれど、これは網膜に白い斑点や出血とか、浮腫ができて破れ、硝子体が赤くなったり、出血がもとで剥離を起こす場合があります。

 糖尿病は白内障も、緑内障も、網膜剥離も全部起こすので、非常に眼科にとっても厄介な病気です。白内障は、老人性であっても糖尿病であっても水晶体が濁ってしまえば、取って眼内レンズと入れ替えるという手術をします。

 緑内障というのは実は最近では、眼圧はあまり問わないことになりましたけれど、多くの場合は眼圧が上昇して、眼底の視神経のところが圧迫されて、見えたという信号が脳に伝わらなくなるために視野が欠けていくという病気です。

 なぜ眼圧が上がるかというと、虹彩の後ろの後房に出され、瞳孔を通って、虹彩の前の前房という部屋へ行き、さらに前房の周りに360度ある前房隅角の奥の、線維柱帯という網目状の組織を経て、シュレム管を通って排出されます。体質的にここが非常に詰まりやすい人とか、狭隅角といって、虹彩と角膜の距離が近くて塞がりやすい人は、緑内障の発作を起こします。

 このように房水が循環するお陰で、大体10〜20ミリ水銀柱という眼圧を保っているのですが、このルートのどこが詰まっても緑内障は起こります。糖尿病で新生血管ができて、房水がシュレム管の方へ行きにくくなった場合も、眼圧が上がります。糖尿病の場合は、この新生血管によって、房水のルートが詰まるのです。

 この写真の瞳孔の周囲の虹彩をよく見ると全部血管があるんですね。普通こんなもの無いんですが、赤い累々とした血管が全面にびっしりありまして、これが虹彩の新生血管です。虹彩新生血管の根っこの方は隅角ですから、ここも詰まっている。

 ところが最近は眼圧が正常値以下であっても、視野だけ欠ける正常眼圧緑内障というのがあるということがわかってきました。特に日本人に多いのですが、眼圧が正常なのに視野が欠けるという非常に直しにくいものです。

 糖尿病の網膜症で失明する方はこっちのほうが多いかもしれません。今網膜剥離の治療は技術的に非常にレベルが上がっているので、大体のものは復位するのですけれど、網膜はくっ付いても、眼圧は下がらなくて失明するという糖尿病の方は極めて多いです。

 市の健康診断で眼底を診る場合に、眼底検査で緑内障が発見されることがありますから、検診はぜひ受けたほうがいいと思います。3・4年前までは、糖尿病の網膜症というのが、中途失明の原因のナンバーワンだったんですけれども、それが数年前に逆転して今は緑内障です。というのはやはり内科の先生たちの啓蒙もありますし、眼科的な手術の成功率も上がったということもあって、糖尿病網膜症で、失明する人は本当に減ってきているんです。

 ただ緑内障がなかなか減らないんです。眼圧を下げても視野が欠けていたり、あとは神経が切れていて治らない、という非常に難しい面があって、緑内障だけはなかなか減らない。今、日本では緑内障による失明がナンバーワンということになってしまいました。

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