網膜剥離治療の最前線

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《2006》総会講演
網膜剥離治療の最前線

   東邦大学医学部教授 竹内 忍先生

     
 
  網膜剥離は、最近は病態の理解、病気の把握が非常に進んで、硝子体手術などの新しい技術も入ってきたものですから、最初の網膜手術、つまり1回目の網膜の手術で9割以上が復位します。そして最終的には剥離した網膜を復位させるということでは、98〜99%
くらいの手術成績にまでになってきました。しかし必ずしも1回だけで全部治るというわけにはいかないものです。

 手術方法は大きく二つに分けられます。
一つは強膜、つまり外側からシリコン材料などで、網膜の孔の開いたところを塞ぐという方法と、眼球に穴を開けて、内側から中の硝子体を取って、空気を入れながら網膜を復位させるという方法との二つに分かれます。
 
【硝子体手術の進歩】
 私が三十年前に眼科医になったころ、硝子体手術などなかったので、網膜剥離の復位率は80%まで行けばまあまあという時代でした。それが急速に手術法が進歩して、それまでは非常に難しいといわれていた巨大裂孔、あるいは網膜剥離がこじれてしまって、剥離した網膜の表面に膜が張り、元の位置に戻ってくれないという、増殖性硝子体網膜症、また、網膜にたくさんの孔が開いてしまうといった非常に難しい症例でも、硝子体手術のおかげで治せるようになってきました。

 特に巨大裂孔網膜剥離などは私が医者になったころは、大きく裂けてしまうという症例では、半分治ればいいというところでした。例えばこういう風に、切れた網膜が重力の関係で下に垂れ下がって来ているともう治せない、空気を入れたりして患者さんを横向きにしたり、垂れ下がった網膜を反対にしたりして何とか戻らないかといろいろやりましたが、うまくいかなかったのです。

 その後、硝子体手術が入ってきてずいぶん変わりました。当時もまだ治りにくかったのですが、1978年、片目が巨大裂孔で駄目になった小学2年の女の子がいまして、もう一方の目の網膜も大きく裂けていて、今でも鮮明に覚えていますが、その子には硝子体手術しか方法はないということで、思い切ってやりました。その子はそれで治りましたが、それには大変な苦労がありました。

 その後、巨大裂孔に関しては、そり返った網膜の中のどろどろの硝子体をとり除き、水より重い透明な物質、パーフルオロカーボンというものを入れておくと重力の力で網膜が押し広げられて、網膜がくっつくという方法が1979年ぐらいから始められました。そのため巨大裂孔網膜剥離もそんなに怖い症状ではなくなってきました。バーフルオロカーボンで押さえた後、目の中にシリコンオイルを入れて網膜を固定する方法が使われるようになりました。

 技術的にも進歩して、手術に使用する顕微鏡にもワイドアングルといって広角のレンズを使うようになりますと、全体がより広く見渡せて、しかもよりクリアな像が得られ、手術が容易になってきました。
【増殖性硝子体網膜症】
 増殖性硝子体網膜症の例です。
こじれてしまって網膜の表面に膜が張ってきて、ここに孔が開いているのですが、後極部、(つまり)後ろ側に剥がれた網膜がくっついていて、元の位置に戻ろうとしても戻れない状態、増殖膜を取らないと戻れないということで、治療に難渋しました。こういう方は網膜剥離があってもしばらく放っておいたら、自然に治るとでも思ったのかも知れません。しかし放っておいた網膜はしわになり、固くなってしまい、ついには膜が張ってこんな状態になってしまいます。

 また網膜剥離の手術が1回では治らず、2回ぐらいやると、目の中の炎症が強くなり膜が張ってきて、その膜で網膜が引っ張られ、グシャグシャになり、固まった状態になってきます。

 網膜剥離は網膜に穴があく一種の怪我の状態です。ふつう怪我をすると血が出て細胞が集まってきて傷を塞いで治していきますね。網膜剥離も一種の怪我ですから、傷を治すために繊維の細胞がいっぱい出てきて、それが網膜の表面に膜となってべたべたついて網膜を安定させてしまう、これは自然の防御反応なのです。ところが物を見るためには網膜が眼球の内側にくっついていないといけない。

 それで手術では、網膜の表面についたその膜や硝子体のドロッとしたものをとってやらないとなりません。膜が端の方から網膜を引っ張って剥がしてしまうのでしわになったところ、固くなったところはきれいに取ってやることが大事です。周辺部の増殖膜もきれいに取りましょうということで、硝子体の繊維を切ってやると、かなり良くなってきました。

 次の人は、何回も手術を受けても治らないということでこられました。網膜が強く引っ張られ、孔も開いていたのですが、幸い何回かの硝子体手術で網膜の復位ができました。

 このように重症の方でも網膜の復位率はだんだんよくなっています。こうして9割くらいの人は手術でなんとかなるのですが、数回も手術をした後ということになりますと、復位は一層難しくなります。また網膜がついたからといって、即、視力が回復するかというとその辺りはまだ限界があります。

 巨大網膜裂孔で手術の時にパーフルオロカーボンを入れますと、術後、網膜の裏側に残ってしまうということがあります。それがあまり視力に影響がない場合はそのまま置いておきますが、視力の中心部の黄斑にカーボンが残ると影響が出てきますので、手術後、もう1回手術を行わざるを得ないこともあります。

 こうした増殖変化が起きない前に治療に入れれば一番良いのですが、しかしまあかなり面倒な状態でも網膜の復位ができるようになりました。以前に比べて手術成績も上がり、重症例も少なくなってきました。

 かなり以前は私のところへはよその施設からも重症の患者さんが紹介されて送られてきていましたが、最近は減ってきていると思います。このような重症例は手術時間もかなりかかるものです。時によると5、6時間もかかってなんとかくっつけられる状態に至る場合もあります。私ももう年ですので、そろそろ若い先生に手助けしてもらって重症例から解放してもらいたいとも思っています。

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