黄斑疾患の特殊性と新治療の可能性

ホーム お知らせ 友の会とは? Q&A 講演録 協力医訪問

2012総会講演
「黄斑疾患の特殊性と新治療の可能性について」

   大阪医科大学眼科教授 池田 恒彦先生

 いつも「網膜剥離友の会」にお世話になっています。私は以前より関西支部のお世話をさせていただいておりまして、毎年関西で5月ころ懇話会を開いています。また毎年研究費をいただき、大変感謝しております。その感謝の意味をこめて講演させていただきます。

 私は長い間、糖尿病網膜症や黄斑疾患などの臨床に携わってきましたが、臨床と平行して研究にも従事しています。今回はその研究成果の一部を発表させていただきます。まず、前半は病気の説明を出来るだけわかりやすくしたいと思います。

 これは眼球の断面図ですが、ご存知のように「網膜」という光を感じる膜が眼球のうしろにあります。光が前から入ってくると、角膜、水晶体、硝子体を通って網膜に像を結ぶとわけです。このスライドは正常の右眼眼底です。ここが視神経乳頭で、ここに黄斑部があります。これから病気を持った眼底写真がでてきますので、この正常な眼底写真を記憶に残しておいてください。

 皆さんが眼科に行かれますと眼底検査を受けられると思いますが、眼科医はこのような倒像鏡という器具を使って眼底検査をします。眼前に20ジオプトリーの凸レンズをおいて光を入れると、その反射がレンズに映ります。上下左右ひっくり返って映るので倒像鏡というのですが、単眼と双眼の二種類があります。こちらの双眼倒像鏡は、返ってきた光を右眼と左眼で分けてみますので、立体的に眼底がみえる優れた器械です。

 これは眼科診断学を非常に向上させたOCT(光干渉断層計)という器械です。網膜に光を当てて、その反射(エコー)を解析し、網膜の断面図を描き出すというもので、網膜内部の非常に細かい病変がわかります。この少し凹んでいる部分が中心窩です。網膜の厚みは0.2ミリ位ですが、OCTを使うと、その中の層状の構造まではっきり分かるのです。

 この写真は、糖尿病の患者さんに生じた黄斑浮腫という水ぶくれです。正常な黄斑部のOCT写真と比べたら一目瞭然、違いが分かると思います。図@ 

 このように、OCTを使うことで、どのくらい悪くなっているのかもはっきり分かり、治療後の効果の判定も的確にできます。

 黄斑部はものを見る中心部分で、視力にとって最も大事なところです。ここに生じる病気について、多いものをあげてみますと、(1)黄斑上膜、(2)黄斑円孔、(3)加齢黄斑変性、(4)糖尿病性黄斑浮腫の4つがあります。

 この4つについて説明した上で、ご支援をいただいて研究した成果を述べたいと思います。

黄斑上膜
 黄斑上膜は、黄斑前膜ともいいます。この病気は非常に多く、特に中高年の方に多いですね。名前の通り、網膜の中心部に膜が張ってしまう病気で、視力が低下する、ものが歪んで見えるというのが主な症状です。どうして起こるかといいますと、眼の中につまっているゼリー状の硝子体が、加齢による変化で液化して、眼球の後ろの壁からはがれてきます。これを後部硝子体剥離と言います。このとき硝子体の一部が網膜の上に残ってしまい、膜状になって収縮することで、網膜にシワを作るという病気です。


 薬で治る病気ではないので、治療するには手術でこの膜を剥ぎ取るしかありません。ご高齢の方で白内障もある方は、水晶体も取って眼内レンズを入れて、さらに硝子体を取り、黄斑上膜の膜をめくる手術をするということになります。硝子体手術は眼内に細い照明を入れて、膜をピンセットでつまんで剥ぎ取る大変デリケートな手術です。この写真は手術を受けられた方の眼底ですが、ここに黄斑上膜があってこのように血管が引っ張られています。

 この膜を取り去ると、次の写真のようにきれいになります。ただ視力は、完全にもと通りには回復しないことが多いのです。手術後に「まだものが歪んで見える」と訴えられる患者さんも少なくありません。このあたりが手術の問題点だと思います。
黄斑円孔
 次に黄斑円孔はどのような病気かといいますと、網膜の中心の黄斑部に丸い穴があいてしまう病気です。中高年に多く、また女性に多いといわれています。自覚症状としては黄斑上膜と少し似ていますが、穴があいてしまうので、視力低下がもう少し顕著に生じます。初期の頃は歪みがあって、見ようとするものが、真ん中に向ってつぶれて見えると訴える患者さんが多いようです。なぜこの病気が起こるかというと、ゼリー状の硝子体が、加齢変化で水のように溶けて、前方に向かって収縮します。

 ここまで黄斑上膜の時と同じですが、この後、後壁に残った硝子体が収縮して、前後方向に引っ張る力が働きます。そうすると、中心窩という薄いところに丸い穴があいてしまうのです。

 この病気は実は網膜剥離より多く、大体人口2〜3千人に一人発症するといわれています。一方、網膜剥離は5〜6千人に一人といわれています。黄斑円孔は、以前は全く治療法がなかったのですが、20年近く前から手術である程度治せるようになりました。黄斑部を引っ張っている硝子体を硝子体手術で取り、空気を入れて、術後患者さんにうつ伏せになってもらいます。 

 そうすると、空気が黄斑円孔周囲の網膜を押さえて、穴が閉じるというわけです。この写真は、OCTで撮った黄斑円孔ですが、硝子体が引っ張るので、このように丸い穴があいています。ただし、網膜がなくなっているわけではなくて、このように持ち上げられて富士山の噴火口のような穴が開いています。図A

 そこで、硝子体を取って空気を入れると、開いている網膜同士が握手して穴が閉じるというわけです。

 穴が閉じると視力もある程度は回復しますが、黄斑上膜と同様、やはり完全には回復しません。視力表でいうと2〜3段階くらいの改善にとどまることが多いというのが実状です。なお黄斑円孔は、両眼におきる方が1割位いらっしゃいます。

NEXT BACK


Copyright(C) 2001-2017 網膜剥離友の会 All rights reserved.