後部硝子体剥離の臨床的研究

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2014年総会講演
「後部硝子体剥離の分類に関する臨床的研究」

 自治医科大学さいたま医療センター 梯 彰弘先生

 
 
 皆さん、こんにちは。自治医大さいたま医療センター眼科の梯と申します。

毎年貴会から研究支援費を頂き、大変感謝しております。昨年は「後部硝子体剥離の分類に関する臨床的研究」というテーマで研究を行いました。

 おかげさまでその成果は、Clinical Ophthalmology という雑誌の2014年号に掲載され、すでに公表されましたことを、まずご報告したいと思います。

 
 
【後部硝子体剥離に関連する網膜疾患】
 後部硝子体剥離(PVD)は、網膜剥離と非常に関連の深い変化です。
硝子体は生玉子の白身のような組織で、普通は網膜の内側に接していますが、それが網膜からはがれてくる現象が後部硝子体剥離です。後部硝子体剥離は、多くは年齢に伴う通常の変化ですが、時に重症な網膜疾患の原因になります。

 後部硝子体剥離に関連する網膜疾患の代表的なものには、次の四つがあります。
(1)飛蚊症、光視症
(2)裂孔原性網膜剥離
(3)黄斑円孔
(4)網膜循環障害:糖尿病網膜症、網膜血管閉塞症
【 後部硝子体剥離に関連する網膜疾患】
 飛蚊症、光視症は、おそらくほとんどの方が経験されていると思います。
飛蚊症は視野の中に、蚊やススのようなものが飛んでいるように見える症状で、ほとんどは加齢による生理的な変化ですが、時として網膜剥離の前駆症状になります。

 飛蚊症は硝子体の混濁の影が網膜に投影されて感じる症状です。一方光視症は、目に光が入っていないにもかかわらず、光が走ったように見える症状で、網膜が硝子体に引っ張られ、その刺激が光として感じられるというものです。光視症も、裂孔原性網膜剥離の前駆症状となることがあります。
 裂孔原性網膜剥離の発症年齢は、20歳代と60歳代にピークがあります。20歳代の網膜剥離では、後部硝子体はまだ剥離していませんが、網膜に格子状変性という変化が生じ、網膜が薄くなって萎縮円孔ができます。その孔を通して、液化硝子体が網膜の下に流入することによって起こります。

 60歳代の網膜剥離は、後部硝子体剥離が直接の原因となって起こります(図1)。

 

図1

   硝子体が剥がれるときに、網膜と硝子体の癒着している部分が牽引され、網膜に裂け目が出来ます。液化硝子体がそこから網膜の裏側にまわり、網膜が剥がれてきます。癒着を起すのは、主に格子状変性の辺縁部分です。

 黄斑円孔は、視力にとって一番大事な部分である黄斑部中心窩に孔が開く病気です。以前は、硝子体による牽引が関係しているのか、いないのか、議論がありましたが、光干渉断層計(OCT)を使った検査によって、浅い後部硝子体剥離が原因であることが分かってきました。

 糖尿病網膜症は、失明の大きな原因となる疾患ですが、これにも後部硝子体剥離が関係しています。部分的に後部硝子体剥離が起こり、硝子体皮質が収縮してくるというタイプは、そのほとんどが増殖糖尿病網膜症です。

 硝子体は透明なので、どんな変化が起こっているか、非常に検査しにくい組織です。我々のグループは、この硝子体の変化を観察する方法をずっと研究してきました。もう亡くなられましたが、福島県立医大の梶浦教授が開発されたレンズをもとに、ニコンと我々のグループが共同で小さな凸レンズを作りました。今はどこの眼科にもあって、網膜・硝子体の検査に使われています。

 皆さんも細隙灯顕微鏡に顎を載せて、「上を見てください、下を見てください」という検査を受けられたと思います。硝子体は動きますので、眼を動かすにつれて形態が変化します。その動的な変化をこのレンズを使って観察します。硝子体検査の基本的手技を解説した教科書も、国内用、海外用を出版しました。
 
 
【後部硝子体剥離の分類】
 
 まず初めに、後部硝子体剥離は、どのように分類できるかをお話します(図2)。
 
 若い方の正常な眼球では、後部硝子体剥離は起こっていません。右上の図はその状態を示しています。ところが年齢が進むにつれて、硝子体が剥れてきます。

 上の中央の図は、後部硝子体は完全に剥離しているけれど、硝子体がつぶれていない状態、右は硝子体がつぶれている状態です。60歳代になると、60%の方で、硝子体がつぶれて、後部硝子体剥離が起こっています。

 下段の三つは、部分的に後部硝子体剥離が起こっているものです。

 その中でも、硝子体皮質の収縮を伴うものは、増殖糖尿病網膜症に最も多いタイプです。右の二つは部分的に後部硝子体剥離が起こり、収縮を伴わないもので、これから完全な後部硝子体剥離へ移行していくと思われます。

 ただ注意が必要なのは、黄斑部にだけ硝子体が少し癒着しているというタイプがあることです。

 このように後部硝子体剥離は六つのタイプに分類できるということを、我々は提唱してきました。

 



図2

     
 糖尿病網膜症で、後部硝子体剥離のタイプごとに、新生血管が生えている割合を調べてみました。すると、完全後部硝子体剥離が起こっている症例では、新生血管は見られません。後部硝子体剥離が完全に起きると、新生血管は生じない、糖尿病網膜症は増殖性の変化をきたさないというのが原則です。

 新生血管が生じるためには足がかりが必要で、硝子体と網膜が癒着しているところにしか生えてこないのです。このようなことから、後部硝子体剥離の6タイプの中では、硝子体皮質の収縮を伴う部分的剥離が、最も危険な状態であると言えます。

 
 
【OCTによる浅い後部硝子体剥離の分類】
 
 一方、通常の細隙灯顕微鏡では観察出来ない後部硝子体剥離があります。我々はこれを浅い後部硝子体剥離(Shallow PVD)と呼んでいます。

 OCTは、精度の高い断層検査ができるもので、網膜の精密な構造を見ることができますが、実は網膜・硝子体境界面を観察するにも非常に優れた器械です。細隙灯顕微鏡では確認できない浅い後部硝子体剥離の観察は、OCTの登場によって初めて可能となりました。

 浅い後部硝子体剥離は、黄斑円孔などの黄斑疾患の病態と予後に密接に関係しています。OCTを使い、浅い後部硝子体剥離のヴァリエーションを観察することは網膜疾患の治療にとって非常に重要です。

 浅い後部硝子体剥離は大きく二つに分けられます。後部硝子体皮質の肥厚収縮がないタイプと、あるタイプ、前者はさらに三つに分けられます。

 1. 後部硝子体皮質の肥厚収縮がない浅い後部硝子体剥離
  a. 経年性の中心窩周辺後部硝子体剥離 Perifoveal PVD
  b. 黄斑疾患に関連する中心窩周辺後部硝子体剥離
  c. 網膜裂孔に関連する浅い後部硝子体剥離

 2. 後部硝子体皮質の肥厚収縮を伴う浅い後部硝子体剥離

 
 
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