硝子体手術の術後視機能への影響

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2011年総会講演
「硝子体手術の術後視機能への影響〜より良い術後視力をめざして」

 東邦大学佐倉病院教授 前野 貴俊先生

 
 
  皆さんこんにちは、前野と申します。昨年、「友の会」から支援費をいただき、今年もいただくことになりました。昨年の研究と今年の研究は継続しておりまして、今年の研究もすでに始めております。

 そこで昨年の研究の報告と、今年これから進めていく研究とを合わせてお話しさせていただきます。題名は掲題の通りです。

 皆さんご存知のように、眼の手術の後には、医師から「手術は上手く行きました」と言われても、なかなか患者さんに満足していただける視力が出ないということがよくあります。硝子体手術の場合、その要因には次のようなものが考えられます。
 
 
【術後視力の関連因子硝子体手術】
★原因疾患
 これは網膜剥離もあれば、糖尿病網膜症もあり、血管閉塞性の疾患もあります。原因疾患によっては、手術が上手く行っても視力が出にくいということが起こります。

★術前視力
 同じ網膜剥離という病気でも、術前の視力が1.0で手術を受けた方もいれば、手術前には殆ど光覚(光しかわからない)だけという方もいます。どのような報告でも言われているのは、手術後の最終視力は、術前視力の影響を受けやすいということです。

★手術前の合併症
 緑内障を伴っている方が網膜剥離になると、網膜剥離は治っても視力が出にくいことがあります。白内障の方では、硝子体手術の時に同時に手術をする場合もありますが、硝子体手術の後、白内障が進んでくることもあります。

★罹病期間
 剥離になって直ぐ病院へ行き、その日のうちに手術を受ける方もいれば、手術までに、何ヶ月も経ってしまうケースもあります。罹病期間の長さは、術後視力に反映する大きな要因です。

★手術の難易度
 網膜の裂孔が巨大であったり、複数あったり、黄斑に孔が開く黄斑円孔だったり、あるいは糖尿病網膜症であれば増殖膜の有無、その範囲などによって、手術の難易度が決まります。

★手術時間
 手術の難易度に伴って手術時間が違ってきます。何時間もかかったという方もいれば、数十分で終わったという方もいます。時間がかかればかかる程、眼に対する侵襲が大きくなり、術後視力に影響してきます。
【硝子体手術による侵襲】
 次に、術後視力に関連する因子の中から、手術侵襲について詳しくお話ししたいと思います。手術が難しく、時間が長くかかれば、当然侵襲が大きくなりますが、このほか「手術器具による侵襲」「酸化ストレスによる侵襲」「眼内灌流による侵襲」の三つについて、術後視力との関係を考えてみます。

★手術器具による侵襲
 硝子体手術は、毛様体扁平部から眼に穴を開け、眼の中に入って手術するものですから、当然器具による侵襲があります。

 最近は「トロカールシステム硝子体手術」といって、作った毛様体の穴に器具を出し入れする筒状のトロカールを先に設置する術式が主流となっています。強膜に開けた穴から直接手術器具を出し入れする従来の方法ですと、手術創に硝子体が引っ掛かり、鋸状縁断裂を起こすことがあります。トロカールを使うことで、このようなことも少なくなってきました。

 また傷が小さいと、眼内液や空気が漏れないので、無縫合で終われる場合もあり、術後の炎症や、縫ってあるところがゴロゴロして痛いということが少なくなりました。このように眼に対するストレスの少ないことから、早い時期に視機能が回復する可能性があると言われ、低侵襲の硝子体手術という方向にシフトしています。

 

図1

   この手術は「小切開硝子体手術(Micro Incision Vitreous Surgery)」の頭文字をとってMIVS(ミブス)と呼んでいます。

以前の手術で使っていた器具は、ゲージが20で、直径が0.9mmぐらいありました。今は23ゲージですと、器具の直径が0.6mm前後、25ゲージになりますと、0.5mm前後です。(図1)

最近はさらに小さい27ゲージが出始めています。毛様体扁平部に開ける傷の大きさは、25ゲージでは20ゲージのほぼ半分で、錫子(せっし。ピンセットのこと)など、全て細い器具で手術ができるようになってきました。
 今までの20ゲージですと、傷口を縫合するため、手術の翌日には眼が痛くて充血していましたが、23ゲージですと、白内障手術と殆ど変わらず、前日に手術したとは思えないような状態で終われることもあります。必ずしも全ての手術が無縫合というわけではなく、また全てが23ゲージでできるわけではありませんが、細い器具でできる手術が増えてきたことで、器具による侵襲は少なくなってきました。
【酸化ストレスによる侵襲】
 ここからは、昨年支援費を頂いた研究「網膜剥離におけるフリーラジカル発現の検討」のご報告となります。

 酸化ストレスとは、生体内で発生する活性酸素種(活性酸素ともいう)の産生と消去のバランスが崩れ、生体内が酸化状態に傾くことを言います。酸素は呼吸によって体内に取り込まれ、血液に溶け込んで全身に運ばれます。細胞にとっては、エネルギーを作るために必要不可欠なものですが、全てが使われるのではなく、余分な酸素が分解される過程で、時々活性酸素が出てきます。これが過剰になって来ると、酸化ストレスになります。
★フリーラジカル
 一般に活性酸素とフリーラジカルは混同されることが多いのですが、活性酸素にはフリーラジカルとそうでないものがあります。活性酸素の一部はフリーラジカルで、残りもフリーラジカルを発生しやすい分子であると考えていただいてよいと思います。

 フリーラジカルとは、分子の外殻に不対電子(電子対を作っていない電子)を持った、極めて反応性の高い分子です。フリーラジカルは、細胞に対して毒性を持っていて、身体中の色々な細胞に悪さをして、細胞をやっつけてしまいます。

 どういうところからフリーラジカルが出てくるかと言いますと、例えば血液の中にはヘモグロビンという酸素を送ってくれるものがありますが、血管が詰まって流れが悪くなると、酸素が届かなくなり、虚血という酸素不足の状態になります。

 虚血になった後に、カテーテルやお薬を使って血流を通すと、一挙に血液が増え、増えた時に血液中の好中球(多核白血球の一種)やマクロファージ(細菌・異物などを消化するアメーバ状の細胞)から、フリーラジカルが出ると言われています。また炎症や、血管内皮細胞・平滑筋細胞などからも産生されると言われています。
★抗酸化物質
 フリーラジカルは毒性を持っているので、脳細胞、心臓の細胞、眼の細胞などに悪影響を及ぼします。血管は身体中にありますから、あらゆるところでフリーラジカルが産生されており、細胞が傷めつけられ、細胞死に至る危険があります。

 これに対して人間の体には、抗酸化成分という防御機構があります。バイ菌が体内に入ると、それに対抗する免疫があるのと同様に、酸化ストレスに対しては、抗酸化成分が悪い物質を消去して、常にバランスをとっています。そのバランスが崩れてしまうと、フリーラジカルが増えていきます。

 フリーラジカルをたたいてくれる抗酸化成分には、内因性と外因性の二つがあります。内因性は誰の体の中にもあるもので、血液中のアルブミン、トランスフェリン、尿酸、グルタチオンなどの物質です。これらが過剰なフリーラジカルを減らしてくれるので、健康な体の中では、普通はフリーラジカルの影響が出てきません。

 外因性とは外から摂取するもので、ビタミン、ミネラル、カロチン、フラボノイド、トコフェロール、ポリフェノールなどが、外因性の抗酸化物質です。こうした物質は、最近色々な健康食品に使われています。

 活性酸素が過剰になる病気には、悪性腫瘍、動脈硬化、高血圧、気管支喘息、心筋梗塞、虚血性不整脈、糖尿病、リウマチ性疾患、アレルギー、免疫不全、脂肪肝、膵炎などがあります。こうした病気の方は、内因性の抗酸化成分の力を越えてフリーラジカルが増え、細胞が損傷されていると考えられます。
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