第11回関西懇話会「質疑応答」

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第11回関西懇話会
「質疑応答」
回答:大阪回生会病院 佐藤文平先生
【シリコンオイルの乳化】
 16歳の娘が、2年前交通事故で眼球破裂を起こし、手術をしました。その後、増殖性の網膜剥離になり、手術をして、シリコンオイルを入れました。眼圧が9ぐらいで、シリコンオイルを抜くと眼球が萎むと言われています。シリコンオイルが乳化した場合はどうしたらよいでしょうか。
 シリコンオイルが乳化すると、本来透明なオイルが白くなりますので、ひとつは眼底検査ができなくなり、視力のある人は視力が落ちてきます。乳化した粒が隅角に詰まり、眼圧が上がって緑内障を起こすという障害もあります。もうひとつは、水晶体が無い場合、シリコンオイルが前房に出てきて角膜の裏に付き、角膜に障害を起こします。

 主なものは水泡性角膜症です。これは、角膜の内側にある内皮細胞の数が減り、角膜に入ってくる房水を眼内へもどす働きが低下するもので、角膜が水膨れになって濁ってくる状態です。シリコンオイルを抜くと眼球が萎縮する可能性が高く、「抜けない」と説明されている患者さんでも、緑内障が起こったり、角膜に障害が出たりした場合はオイルを抜き、必要があれば、また新しいオイルを入れることもあります。

 眼球に生命力が無くなってくると、水泡性角膜症が起こってきます。水晶体も無く、しかも網膜をたくさん切り取られているという状態ですと、毛様体が弱ってきます。毛様体は、房水を生産して、水晶体と角膜に栄養を届けています。いわば眼球の心臓にあたりますから、毛様体が弱ると心不全のような状態になり、眼全体が弱ってきて、角膜が白くなってくることが多いです。

 ぶどう膜が損傷するような外傷を受けると、傷を受けた方の眼だけでなく、その反対側の眼にも炎症が起こることがあります。これを交感性眼炎といいます。

 この炎症は、ぶどう膜に対する自己免疫反応として起こって来るものです。色素に富んだぶどう膜が、自分の免疫系から攻撃されるという意味では、原田病(フォークト・小柳・原田病 )と同じで、経過も似ています。外傷の後で起こる網膜剥離は、裂孔が原因ではなく、炎症が原因で起こる滲出性網膜剥離である場合があります。

 眼球が委縮して小さくなった時、代わりになるのが義眼です。いろいろな材質でできた義眼台を眼の中に入れて、その上に大きな義眼を入れる場合と、眼球を残し、その上に分厚いコンタクトレンズを乗せる場合とがあります。コンタクトレンズは眼球が全く痛みを感じなくなった場合に使います。眼球を取って義眼にするときも、動きを残す手術もあります。

 乳化したオイルは、硝子体から角膜の裏に流れてきて、角膜の裏に白く溜まります。水より軽いので、上のほうに溜まります。普段は見えなくても、瞼を上げて、黒目全体が見えるようにすると、その中に白いものが溜まっているのが見えるかもしれません。

 通常の網膜剥離はガスを入れて治すのですが、ガスでだめなときは、オイルを入れます。オイルはずっと同じ容積で減りませんから、体力的にうつ伏せができない人、小さいお子さんでじっとしているのが困難な場合などは、オイルを入れて網膜を押さえ、治ったら抜くということをしています。今のシリコンオイルは、昔のオイルに比べて、ずっと品質が良くなっています。かなりの量が乳化しないと、全体が濁ることはありません
【強度近視】
 30歳の時数字を見ていて見え方がおかしいのに気付き、病院で診ていただくと、黄斑部に孔が開いていると言われ、光凝固をしました。現在視野の真ん中は見えず、年2回検診を受けています。強度近視ですが、若いころは眼鏡をかけて1.0見えていました。今は0.5しか見えません。このままだんだん見えなくなってしまうのでしょうか。
 強度近視の方は、網膜の機能が弱ってくるため、眼鏡では矯正できなくなる場合が多いです。コンタクトレンズをして、矯正視力0.5ということですと、水晶体がきれいであれば、網膜が傷んでいる可能性があります。現在日本の失明原因第4位は強度近視です。

 強度近視の方は網膜も薄く、裏の脈絡膜も薄いので、栄養状態も徐々に悪くなり、しだいに網膜の細胞が傷み、見る力が弱ってきます。それが始まっているのだと思います。予防法はありませんが、急速に失明することはありません。

 加齢黄斑変性と同じ理屈で新生血管が生えることがあり、そのときは急速に視力が落ち、真ん中が見えなくなることがあります。定期健診は半年に一回でいいのですが、常に片眼ずつ細かいものを見て、見ようとするところの見え方がおかしくないか、チェックしてください。少しでも歪みや見えない部分が出てきたら、すぐ受診してください。
【白内障とiPS細胞】
 白内障にはまだ間がありますが、将来iPS細胞を使って、レンズを入れずに、自分の眼だけで見られるようになる可能性はありますか。
 可能性はゼロではありませんが、臓器そのものの移植は、まだ夢のような段階です。今でも保険は効きませんが、遠近両用のレンズはあります。片眼で50万円ぐらいです。いいレンズができたらもう一度手術をして、レンズを入れ直すこともできます。

 iPS細胞から網膜色素上皮細胞が作れるようになり、加齢黄斑変性の臨床研究が始まりました。しかし網膜の視細胞は神経組織なのでまだ作れません。色素上皮細胞以外の網膜は、視細胞だけでなく、そこに繋がる神経細胞や、ミュラー細胞など色々な細胞のネットワークでできているので、まだ再生は難しいです。
【黄斑円孔とiPS細胞】
 黄斑円孔があります。従来黄斑は触ってはいけない場所と言われていますが、iPS細胞で治るようになりますか。
 黄斑円孔は、今でも硝子体手術で治ります。黄斑円孔は治療する範囲が狭いので、再生医療の対iPS細胞を使った加齢黄斑変性治療の第一次報告がありますので楽しみです。
【黄斑上膜】
 網膜剥離のあとに膜が張ってきました。手術はしたくないのですが。
 網膜剥離のあとに黄斑上膜という膜ができる病気です。これは手術できますし、そんなに難しいものではありません。専門医でしたら普通にできる手術です。患者さんは一度網膜剥離の手術をしていると、もう痛い目はこりごりという方が多く、よほど悪くならないと手術を希望されません。片眼が見えていないということですので、早く手術しないといけません。

 網膜剥離後に罹りやすい疾患質網膜剥離になったあとに罹りやすい疾患はありますか。どんなことに気を付けたらよいでしょうか。答網膜剥離手術は二種類あります。バックリング手術は眼球を締めますので、多少血流に影響して、白内障が起こりやすいと言われています。

 ただしこの手術の場合は、水晶体を残します。硝子体手術は水晶体をいじるため、術後に白内障を起こすことが多く、同時に白内障の手術をするケースもよくあります。

 網膜剥離は20代と50代に二つのピークがあります。20代は小さなピークで、50代は大きなピークです。50代の方は白内障が少し出ていて、間もなく白内障になるのがわかっていますので、硝子体手術と同時に水晶体をとる手術をします。若い方は白内障がなく、硝子体手術しても、白内障の進行がありませんので、水晶体を残します。

 術後の注意については、基本的に眼をいくら使っても、使い傷みはありません。ただ元々強度近視のある方や、網膜の細胞が悪い方は、あまり強い刺激を長時間与えない方がよいでしょう。網膜の活動が盛んになる強い光刺激に対しては、遮光レンズという眼鏡があります。

 パソコンにはパソコン用シールド眼鏡がありますので、こうしたものを使えば問題ないでしょう。疲れ眼に効く目薬はありません。普通は読書用の眼鏡でパソコンをされると思いますが、書用は30センチで、パソコンまでの距離は50センチぐらいありますから、50センチと30センチに合う「中近」という眼鏡を使うと眼が楽になると思います。

 剥離になるということは質網膜剥離になるということは、眼が弱いということですか。答強度近視の方は別ですが、一般の剥離は、眼が弱いということとは関係ありません。偶然起こったというだけです。50歳〜60歳の近視が強くない人の剥離は偶発事故ですから、特に心配はいりません。
【角膜内皮細胞と前房レンズ】
 角膜内皮細胞が800ぐらいしかありません。前房レンズ(角膜と虹彩の間に入れるレンズ)を入れているので、取り出した方がよいでしょうか。
 角膜内皮細胞は、隣の細胞と一緒になって大きくなり、また隣の細胞といっしょになって大きくなり、1ミリ平方あたりの密度が500を切りますと、水泡性角膜症になると言われています。正常な方では、この密度が3000くらいあると思います。角膜内皮細胞は、減ってしまうと元に戻りません。

 前房レンズは虹彩の前にいれるもので、角膜のすぐ後ろにレンズが見えます。角膜の内皮細胞に接触しているので、影響があります。私も稀に使いますが、80歳以上の人にしか入れません。

 取り出して、レンズを虹彩の後ろに付け替えることもできますが、その手術をすることで、角膜内皮細胞の密度がさらに1〜2割減る可能性があります。現在800だと辛いです。  
【角膜移植と角膜内皮細胞移植】
 角膜移植と角膜内皮細胞の移植について説明してください。
 角膜移植は、角膜を全部取り他人の角膜を持ってきて縫いつけます。拒絶反応が心配ですが、臓器の移植に比べたら少ないです。

 眼は拒絶反応が少ない組織です。角膜内皮細胞の移植は、もう片方の眼から細胞を採り、培養して、シートにして、移植します。自分の眼の細胞なので、拒絶反応はありません。角膜内皮細胞の減少であれば、内皮細胞の移植で治療できると思います。

 編集部:この質疑応答は、平成25年5月12日に行われました。

 同年12月、京都府立医科大学の医師を中心とした研究チームにより、「水庖性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植」の臨床研究が始まり、平成26年3月12日に、記者発表が行われました。この発表の概略をご紹介します。

 水庖性角膜症は、角膜内皮の機能不全が進んだもので、角膜移植患者の中で大きな割合を占めていますが、この病気に対する角膜移植の予後は不良で、新しい治療法の開発が望まれていました。ヒトやサルの角膜内皮細胞は、生体の外で培養すると、形態が変化し、機能を失ってしまいますが、研究チームは特殊な薬剤を用い、培養に成功しました。

 当初動物実験の段階では、培養した細胞をシート状にして移植していましたが、細胞を前房に注入するという方法を開発し、今回の臨床研究もこの方法で行われました。細胞の注入は、シートの移植に比べ、患者の負担を大きく軽減するものです。

 今後は、中〜末期の水庖性角膜症に対しては、シートと注入療法を使い、初期の水庖性角膜症には点眼によって治療することを目指しているそうです。培養される細胞は、必ずしも患者本人のものではなく、「若年者由来の、老化の少ない高機能性の内皮細胞」を用いることがあるようです。

 今回の臨床研究では、57歳、60歳、68歳の3名の患者さんに対して角膜内皮細胞の注入が行われ、0.05〜0.06だった視力が、それぞれ0.5、0.9、0.1まで回復し、安全性が確認されたと報告されています。

 この研究が、多くの患者さんにとって福音となることを期待したいと思います。詳しくは、記者発表「水庖性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植を世界で初めて実施」をご覧ください。
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