第48回東海懇話会「質疑応答」

ホーム お知らせ 友の会とは? Q&A 講演録 協力医訪問

2013年第48回東海懇話会
「質疑応答」
回答 アイケア名古屋副院長 田中住美先生
【白内障手術で網膜剥離再発の可能性は】
 15年前に網膜剥離をしました。白内障がかなり進んできましたが、白内障手術をした場合に、網膜剥離が再発する可能性があるか、お聞きしたいのですが。
  網膜剥離は、治療の出来具合にもよりますが、1年以上経って再発ということはあまりありません。特に3年を越えた再発は、よほどの事がない限りありません。15年前に網膜剥離をされたということですと、白内障の手術によって網膜剥離が再発する可能性は、かなり低いと思います。

 しかし、私の経験では、再発した方が2人いて、絶対大丈夫かは、眼底を診ないと何とも言えません。一般的には、網膜剥離が特殊なものでなければ、白内障手術をしても、再発の可能性はかなり低いと思って大丈夫だと思います。

 白内障手術は網膜剥離手術と違い、手遅れということは基本的にありません。原則「いつでもいいですよ」ということですが、時間が経つにつれ、水晶体が硬くなってきます。白内障手術は濁りを削って、吸い取るのですが、水晶体が硬くなると、削る時間が掛かり、トラブルが起りやすくなります。

 怖がって長く待っていると、逆に白内障手術自体の成功率が微妙に下がります。微妙な差かもしれませんが、あまり延ばさない方がよいと思います。

 15年前といいますと、網膜剥離の治療法はその後かなり変わりました。特に巨大裂孔の成功率は、この10年ぐらいで飛躍的に上昇しました。昭和の終わり頃、網膜剥離巨大裂孔の成功率はまだ低く、60%以上の手術結果をコンスタントに出しているところはかなりの専門病院でした。今は普通の病院でも90%以上成功しています。

 それは器械の進歩よりも、パーフルオロカーボンという薬が出て、網膜をきれいに伸ばすことができるようになったのが大きいです。ですから、万一白内障手術で網膜剥離が再発しても、治せる可能性が圧倒的に高いです。

 白内障を放っておいて、どうにもならないほど我慢することを考えると、手術のあと注意して、それでも網膜が剥がれたら、ちゃんと治療してくっ付けるという方が、長い目で見ると、圧倒的にメリットがあると思います。

 私達も白内障手術の際には、必ず網膜剥離のお話をします。99%安全ですと言っても、残りー%にご本人が入ってしまうと、その数字は何の意味もありません。もし剥がれたときには、いつ頃手術になるか、仕事は休めるかなど具体的にお話することが多いです。周りのサポートが得やすい時期を選んで手術するのもひとつのやり方だと思います。
【飛蚊症解消のための硝子体手術】
 現在59歳、5年前の8月に右眼に網膜剥離を発症し、レーザー治療をして、1ヶ月後にバックリング手術をしました。剥離したときに出血があり、その後遺症のため、いまだに飛蚊症がかなりあります。矯正視力は1.0あり、事務仕事は何とかこなしていますが、車の運転は霞がきつく辛いので、生活の質は低下しています。

 主治医に、硝子体手術をすれば飛蚊症はよくなると言われましたが、硝子体手術は眼科の領域では最難関の手術と聞き、後遺症の発症が不安です。最悪失明とか、かなり覚悟のいる手術なのでしょうか。私は左眼斜視弱視で、右眼だけで生活しなければならないため決心がつかないのが本音です。術後の白内障、網膜剥離の再発、また眼球に3本の針を通すとのことですが、外見上傷跡が残るかも心配です。
@眼の中の濁り

 網膜剥離後の飛蚊症に関しては、3つの要素があります。一つは後部硝子体剥離という老化現象によって起るものです。その濁りは網膜剥離が起きなくても、孔が開かなくても、誰にでも出てくるもので、明るい所でものを見ると気が付きます。それは眼の中にある線維なので消えません。

 後部硝子体剥離は、車でいうとブレーキを掛けたまま、アクセルを踏んでいるという感じです。硝子体は本来透明なゼリi状の物質で、若い頃はこれがブレーキとして働いています。アクセルは、硝子体の中の水と線維が分離して、線維が縮もうとすることです。

 60歳前後で後部硝子体剥離が起るのは、ブレーキの力が弱まるからです。硝子体の中に溜まっていた水が外へ抜け出し、ため込んでいたアクセルの力で、硝子体は網膜から剥がれ、前の方へ縮んでいきます。このとき飛蚊症が現れ、網膜に孔があいたり、網膜剥離が起こったりします。

 二つ目は、網膜剥離のときに出てきた細胞です。網膜がはがれていると、増殖硝子体網膜症の原因になる細胞が硝子体中に泳ぎ出してきます。特に出血がある場合、出血と一緒になって、長いこと消えません。消え始めたという自覚がもてるのは、術後6ヶ月ぐらいからで、2年ぐらい掛けてゆっくり減っていきます。

 三つ目は、手術によって生じた濁りです。術後早い時期に現れて、1年ぐらい掛けて引いていくことが多いです。今見えている濁りは、おそらく後部硝子体剥離によるものと、出血、その他硝子体中に出てきて固まった濁りが残っているのだと思います。

 眼の中に強い濁りがあり、目の前を行ったり来たりして物が見えにくいというときには、硝子体手術で濁りを取ることができます。手術をすると、濁りが取れて快適になることもありますが、患者さんが期待したほどきれいにならないこともあります。濁りが全部硝子体とつながっているというような場合には、あまり思い切って引っ張れません。

 小規模な切除で済まそうとすると、切ったところと、切っていないところの境目では、どうしても光の屈折率が変わります。真ん中は取れたけれど、周りの濁りが却って気になるということになる可能性もあります。いろいろなことを考えなければいけない危ない眼がありますので、手術の結果は一概には言えません。

A術後の白内障・網膜剥離

59歳という年齢ですと、濁りを取るために眼の中をいじると、かなりの可能性として、術後1年以内に白内障が出てきます。そこで、白内障手術を硝子体手術と同時にやってしまうこともあり、その方が手術としては、やりやすいです。

 網膜剥離の再発に関しては、5年経過というのは微妙なところです。バックリング手術の治り方を診ないと何とも言えませんが、バックルだけで治したということなら、おそらく大丈夫ではないかと思います。白内障手術で再剥離が起ったら、またくっ付ければよいというのは、先ほど申し上げた通りです。

 現在網膜剥離は、ほとんど治せる時代になりました。また剥がれたと言われると、ガッかリさhると思いますが、たとえ増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy:PVR)でも85%は復位できます。普通の網膜剥離なら、いろいろな手術方法を駆使して、私は99%以上治しています。あまり心配しなくても大丈夫です。

B傷・外見

 傷口に関しては、大きな傷よりも、意外に小さな傷の方が、ゴロゴロするのが残って嫌だという方もいます。医師は非常にきれいに出来て、満足してもらえると思っていると、「先生ここに何か物がはいっているみたいで」と言われることもあります。傷口が小さいと、見た目はきれいなのですが、満足度が高くなるとは限りません。

 細い針で手術をやっても、手術後、恨斗D左主び言うほど、慧者さんが何も感じていないわけではありません。逆に大きく切って、色々なことをやった手術の場合でも、特に若い方は、「どっちの眼でしたか」と聞かないとわからないこともあるくらいです。ただ何回も手術をすると、眼の周りの脂肪が痩せてしまって、彫りが深くなった感じになることがあります。濁りを取る手術が一回で済めば、見た目はそんなに大きく影響を受けないと思います。

 ただ医療というのは、予想外のことがあります。その一つはバイ菌の感染です。手術がうまくいって、手術後いい視力になっても、感染で全てがゼロになるという事態も皆無ではありません。バイ菌に関しては、皆がいろいろ努力していますが、予期できない時に入ってしまうことがあり、どうしても可指腔はゼロにはならず、0.4%以下というところです。しかしこの数値から見ても、めったに起こらないことは間違いありません。

【iPS細胞】
 今話題になっているiPS細胞ですが、網膜を再生させると聞いたのですが。
 
 iPS細胞に関しては、NHKが色々宣伝してくれたおかげで、話がややこしくなっています。今話題になっているのは、何層にもなっている網膜の中で、一番外側にある色素上皮という細胞だけを移植するというお話です。iPS細胞で作った網膜色素上皮の細胞シート(膜状の細胞)を、加齢黄斑変性の患者さんに移植するという治療の臨床研究が、始まろうとしているところです。

 移植した細抱がうまく走着しない場合、壊れて無くなってしまうので、患者さんの視細胞自体は生き残っていくと言われています。この治療によって、眼の働きが戻ってくるかどうかは、今の時点では何とも言えません。

 このように、今実際に行われているのは、色素上皮を取り替えることだけですが、動物実験のレベルでは、色素上皮と一緒に視細胞を入れると、生着する(生きたまま残る)らしいとわかっています。ただこれをヒトに実現するためには、乗り越えなければならないことがたくさんあります。物を見るためには、移植した視細胞に神経がうまく繋がって、それが脳まで伸びてくれなければなりません。

 視神経を含むヒトの中枢神経は、再生しないと言われています。以前アメリカに行ったとき、これには再生をブロックするシステムがあるらしく、その解除方法が最近みつかりかけているとを聞きました。色々な研究がそれぞれ別個に進んでいますので、将来神経を脳まで伸ばしていく方法が見つかるかもしれません。

 例えば私が学生のとき、生理学の教授が、イモリなど両生類の眼球を摘出して、目玉を反対側に向けて移植したらどうなるかということをやりました。すると、ちゃんと元通り神経が繋がるらしいです。それは目玉の表面に電気勾配(プラスとマイナスの電位差)があり、それを神経が認識して、正しいところに繋がっていくからということです。

 動物がもっているこのような能力を、人間はどこかで失った、つまりその力が働かないようにブロックされたと考えれば、何らかの方法でブロックを解除することで、眼球移植も可能になる時期が来るのではないかという話を聞きました。しかし、それは相当先になると思います。

 もう一つ話題になっているのは、人工視覚というものです。小さな電子チップのような物を、網膜の裏に埋め込み、神経を刺激して物を感じるという方法です。この治療は網膜色素変性症のように、視細胞は損傷されているけれど、神経は比較的残っているという方たちに、有効であると期待されています。

 しかし現時点では、まだチップの性能に限界があり、文字が読めると言っても、デパートの壁面にある電光ニュースのように、非常に大雑把なものしか見えないというレベルだそうです。

 iPS細胞だけでは無理だとしても、その他の技術を総動員すると、将来的には何か素晴らしいことが起こる可能性は充分あると思います。技術はある時、突然進歩することがありますから、大いに期待したいと思います。
NEXT  BACK


Copyright(C) 2001-2017 網膜剥離友の会 All rights reserved.